私の場合、高校の3年間、母(故人)に弁当を作ってもらっていたのだが、どんな中身だったかはすっかり記憶がない。ただ、年頃の男子というのは必要以上に体面を気にするもので、風変わりなおかずだったり、友人の弁当の方が豪勢だったりすると、異様に恥ずかしがりスネてしまう。
ある日の昼休み、同じクラスの別グループの方から「何だそれギャハハッ」と誰かをはやし立てるような声が聞こえた。そしてほぼ同時に「俺だってこんなの食えないよ!」と言いながら、どこかへ走り去るA君の姿があった。どうしたんだろうと様子をうかがっていると、どうやらその日のA君の弁当箱には「ぼたもち(おはぎ)」が6つ、ぎゅうぎゅう詰めで入っていたらしく、あまりの珍しさにみんなで笑ったとのことだった。
きっとA君、ふだんは「ぼたもち」大好きだったんだろうな、お母さんも、息子が喜ぶと思って入れたんだろうな、と今でこそ容易に想像がつく。「お母さんのぼたもちおいしいね」なんて会話もはずむ幸せな家庭。しかし、いざ同級生たちを前にした当時のA君にしてみれば、多感な高校生ゆえ、顔から火が出るような思いだったのだろう。
程なくしてA君が戻ってきた。購買でパンを買ってきたらしい。パンの方がおしゃれ、パンの方が恥ずかしくないということなのだろうか。でも、そんな彼が、得意満面そうに手に持っていたのは
あんぱん
だった。
どんだけあんこ好きやねん…
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